…… なんてお話の前に竜神峡のご説明をさせてください。
① 竜神峡
久慈川の支流山田川に注ぐ竜神川という急流がありました。棚倉断層の崖を削って鋭く切れ込むV字谷を造り、その急峻な地形から開発が及ばず周囲は鬱蒼とした原生林でした。谷に沿った危険な踏み分け道しかなかったところに、近代になって車1台分の幅の林道が作られましたが人を拒む場所であり続け、おかげで自然観察には最適の場所であったそうです。
② 竜神ダム
1978 年、その竜神峡の下流半分を水没させる形でダムが完成しました。事業主体は茨城県。水利とかの建て前はありますが、当時は公共事業全盛の時代で建設工事そのものが目的のダムであったろうと思われます。渓谷に沿った元の林道はダムで途切れそのまま廃道になって、上流側の高い場所に新たな舗装道路が作られました。ただしこれはダムの堤体と事務所を経てダム湖最上部「亀ヶ淵」までの管理道路で一般車は通行止め、貸自転車で亀ヶ淵まで行けるようになっていました。亀ヶ淵から先は渓谷が残っていて、私がヤンマタケを見たのもここでした。
③ 竜神大吊橋
1994 年、竜神大吊橋が開通しました。山田川沿いの下流側に断層崖の上まで行く立派な道を作り、広い駐車場と売店を作り、渡ったところで行き止まって戻るしかない歩行者専用の有料大吊橋がダム湖面から 100 メートルの高さに渡されました。純粋に観光目的の事業でしたが周囲は紅葉の名所となり、のちに業者がバンジージャンプの営業を始めたことで広く名を知られるようになりました。
ということで、昔そうしたように貸自転車で亀ヶ淵まで行くつもりでダム湖畔まで来たら、自転車貸出所が無くなっていました。代わりにカヌー体験の受付所ができていて、それも冬季閉鎖中。いきなり出鼻をくじかれた。
ダム沿い、かつて蕎麦屋さんがあった場所はおしゃれなカフェに。
入ってみました。客は私一人。渓谷にせり出した窓ぎわのダムが見える席に座ります。ハンバーグを注文。
こぎれいな店内。本がいろいろ置いてあって
こんなのを眺めておりましたら
料理が来ました。いつも一口がっついてから写真を撮っていなかったことに気づきます。私に食レポは無理なのだ。
ダムの堤体を眺めながら美味しくいただきました。
気になっていたことをお姉さんに聞いてみました。大吊橋に足場が掛けられていて、バンジージャンプの足場が見えなくて、歩いているお客さんの姿が見えないのはなぜ?…… 何と塗装工事中で、3月中旬まで渡橋できないんだって。知らないで来たお客さんがっかりだろうなあ。帰宅後に「竜神大吊橋」のHPを確認しましたが、小さくそのことが書いてありました。バンジーは? 何も書いてません。運営会社のHPにも記述なく、予約ページも予約確定の手前まで何の注意もありません。不作為というか、誰も責任取る気がないという風情だけど大丈夫かな、これ。
商業主義に走るあまり基本的な配慮が…… なんて言っても、観光地ってそういうもんだしなあ。私的には貸自転車が廃止になっていたことが打撃です。亀ヶ淵まで行くとなると、これからはダム沿いに4キロ歩くことになるのか。
愚痴っても仕方ない。渓谷沿いの廃道を行けるとこまで行ってみましょう。
と思ったらすぐ行き止まりました。やっぱり廃道です。
その廃道の傍ら、渓谷を見下ろす崖上に地蔵菩薩。
碑文には 1963 年、生活に疲れた若い母親が幼子二人を道連れに身を投げたとあります。それを哀れに思った有志が建てたものだと。六十年と少し前、多くの人が心を痛め母子の慰霊・魂の救済を願った記憶。長い時をかけ様々な人生が積み重なったこの地この道の、これが唯一の残された物語です。それもやがてこの廃道と共に忘れ去られるでしょう。いいえこのダムも吊橋も、決して永遠のものではありません。喝采を浴びるスポーツのヒーローも世界を脅かす独裁者も、そう考えるとなにか虚しいものに思えてきます。
ダム周辺の崖地にイワヒバがあります。結局太古より変わらず、そしてこの世に残るのはこんな者たちです。自然は尊い。
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