ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

ヤンマタケ再び 【冬虫夏草閲覧注意】

 

 ヤンマタケの記事が意外にウケました。

 

 未知のものへの興味。知識を強く希求する心。私もまた見果てぬ宝を求めてこの世界を旅する者です。求める方には、できる限りのご助力をさせていただくのが務めだと思っております。


 で、ヤンマタケ。どこを探せば、というコメント欄へのお尋ねに思いつく限り並べてみましたが、私自身、近年は見ておりませんでした。言に責任を持たねば、というのでフィールドに出てみます。ヤンマタケだけを目的に、というのは初めての経験です。


 冬虫夏草探しで大切なのは場所選び。なるべく自然度の高い、わたし流に言う「良い」場所です。最初に思いついたのは「アオダイショウの沢」、ヘビ嫌いさんごめんなさい。久慈川沿いの、かつてざくろ石目当てに入ったら巨大なアオダイショウが道をふさいでいた沢です。礼を失せぬように挨拶をして入ったら、とても良い雰囲気の場所でした。あの時は生物屋の眼は用いなかったけど、さてどうだろう。

 


 うっそうとした場所に見えますが、国道118号が走り、水郡線の駅に近く、左右の斜面の上は人家です。

 


 ヤンマタケのような空気中の器物に着生する「気生」の種に大切な発生条件は、とにかく夏に空中湿度が高いこと。猛烈な熱気の中、そこらへんがびしょびしょでうっかり触ろうものならぬるりというイヤな感触に見舞われること。それは乾燥した冬でも知りえます。例えばこの、野生化した茶の木の葉に付いたカビゴケ。

 


 キヨスミイトゴケもびしょびしょのいい指標です。

 


 そして決定版!ヤンマタケと同じ気生の冬虫夏草 ガヤドリタケ。わあ見つけちゃったあ。

 


 ヤンマタケと同じ環境に発生するので、これがあれば期待マックスです。

 


 … ところが。山中をたどり、沢をどこまでもどこまでも遡ってみたのですが、さっぱりヤンマタケが見つかりません。おかしいなあ。眼力には自信あるんだけどなあ。

 


 動物の巣穴。タヌキかキツネかアナグマか。いろんな生き物はいるようですが、ここでのヤンマタケ探索は諦めました。

 


 どうも人里は芳しくない。もう一か所どこかを、というので思いついたのが、昨年末に見つけた山上のメノウ鉱山跡。そこから流れ出す沢に良い空気感がありました。愛車エスクードで林道を駆け上がります。

 


 大寒・七十侯「沢水凍り詰める」。

 


 厳冬期でもコケの緑はきれいです。これはオオトラノオゴケ。

 


 道なき沢を下ります。特にここは難所で、奥に見える小滝を這い降りてほっと一息ついたところ。わしこんな人界離れた場所で何やっているんだろう。いや迷うな。ヤンマタケを探せ。

 


 いま辿ってきた集塊岩の崖をふと見上げて…… 見えた。何かが見えた。意識より先に眼が捉える、これが「生物屋の眼」。何だ、何が見えた。

 


 痩せた崖地にいじけてねじれたアオキの茎、周囲のカンスゲの葉がバリアのように守る空間の中に…… ありました。ヤンマタケです。


 前のヤンマタケ記事のコメントでのお尋ねに、トンボが安心して長時間止まれる場所てなことをお答えしました。それはすなわち、ヤンマタケ菌がトンボを待ち伏せしやすい場所でもあります。どうやら的外れなことは言わずに済んだようでほっとしました。

 


 ミルンヤンマを宿主にした、なかなか立派な……と喜んで折り取ったところで失敗に気付きました。子実体(キノコ部)が小さい。これも前回の同様、全然未熟の個体です。いい写真にするにはもう少し現地に置いて追熟させるべきでした。あああもう手遅れ。連れ帰るしかありません。

 

 

       
 そもそも最近の私は、生物に関しては採集を極力控えています。その生物の本来の生息地での暮らし、個体群の維持を考えるから。見つけたのが嬉しくてつい取ってしまうなんて若い真似はまことに恥ずかしい。まあ取ってしまったからにはじっくり写真を撮らせてもらいますけど。

 


 菌糸で枝に張り付いています。もっとどアップの写真もあるんですが自粛しますね。冬虫夏草もいろいろありますが、宿主がこれほど哀れな姿になる種も珍しい。ミルンヤンマ、無念であろうなあ。

 


 さてなんとか能動的にヤンマタケを見つけることができました。いえ、前回は偶然というか幸運という要素が大きかったもので。でも今回、良さげな場所なのに見つけられなかったということもありました。良い条件が揃っているのに発生したりしなかったり。生物、特に希少な生物ではよくあることです。なぜなんだろう。


 今回のも含めて、これまでヤンマタケを見た場所を地図上にプロットして気づきました。ヤンマタケがあったのは、いずれも人里離れた場所なんです。これで6カ所めになりますが、1種類の冬虫夏草としては多い方、でもみな俗塵から切り離されたような土地ばかり。低地から高地まで標高は関係ありません。人の営みを避けるような分布です。

 


 ふと思いました。ひょっとしてこのヤンマタケ、ヒトの「気」を嫌うのではないかな、と。


 すいません、また変な話です。食用キノコの有名なもので釈迦シメジまたは千本シメジというのがあって、土中の一つの根株から千本は大げさですが百本を超えるキノコがにょきにょきと生えます。もう見た目のインパクト最高。その成長途中、キノコがまだ開かず丸い頭を並べている姿がお釈迦さまの螺髪みたいです。で、変な話というのが、その成長し切らない幼菌の時に人間に姿を見られると、そこで成長を止めてしまい、そこからもう大きくならないというのです。幼菌を見つけた人が、もう少し大きくなってから採ってやろうと日を置くのですが、何日経っても姿を変えなくなってしまうのだと。人に見られたことを恥じるように。

 


 ンなアホなっっ

 


 … ってもちろん私も思うのですが、キノコ取りのひとがまことしやかにそう言うのです。そんなことってあるんでしょうか、妖精さんじゃあるまいし。でも現場の人が体験で語ることには必ず真実の一端があるはずです。何かはわからないけど。

 


 で、ヤンマタケです。私は人里で見たことがありません。今回も、最初の場所はアオダイショウがヌシを務めるような良い沢でしたが、かのヘビは人の気を好むもので里を住まいとします。そしてヤンマタケのいた次の場所は里を遠く離れた山上の異空間でした。かつてはメノウ採掘者が住まうこともあったでしょうがそれも遥か昔、いまは誰の記憶にもない忘却の惑星みたいな土地です。訪う人もない静かな谷間で、ヤンマタケ菌も安心して(トンボに取りつくという)日々の暮らしを続けられるのでしょう。

 


 この説というかヨタ話、オカルト的な超自然の語りと捉えてくださって構いませんし、科学的に、ヒトの生活から発せられる物質・ニオイ・人声や騒音、そんなものがヤンマタケ菌に化学的な攪乱を起こさせるゆえと考えてもいい。ヤンマタケはヒトを嫌う。我ながら良い作り話だと気に入ってます。

 


 この冬は、もう少しヤンマタケを掘り下げてみよう。久しぶり、妙に前向きになってます。

 

 

 

 

 

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