ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

コニシキソウ,雑草という草はないけれど

 

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 夏です。雑草の季節です。


 わがささやかな庭の,夏の雑草の繁茂の仕方がもう尋常じゃない。わずか5ミリの芽生えを1週間見逃すと成体に育ち,さらに1週間後には種子をばらまいているという回転率で加速度的に地面を覆っていきます。トキワハゼ,スベリヒユウラジロチチコグサ,トキンソウ,ドクダミ,メヒシバ,ヒメジョオンカタバミにオッタチカタバミセイヨウタンポポ,などなど。ツルニチニチソウは駆除に成功しましたが,セイタカアワダチソウは一度駆除してもいつの間にか侵入を繰り返して毎年イタチごっこです。そんな雑草たちの中でも,特に夏場の宿敵となるのが今日のお題,コニシキソウであります。

 

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 トウダイグサ科ニシキソウ属。草本から木本まで,湿地から砂漠まで,低緯度から高緯度まで,栽培食用作物からギネス認定「世界一危険な木」まで,多肉植物まであるという多様性のデパート・トウダイグサ科。その中で「雑草」に特化したのがこの属です。細い茎でひたすら地を這い草刈りを逃れるのは戦場での匍匐ほふく前進を思わせます。頭の上を弾丸ならぬ草刈り鎌がびゅんびゅん飛び交っても,ものともせずに版図を広げていきます。踏まれても平気。切られてもすぐに節から新品の茎を出し,掌を広げるように地を覆っていきます。倒す方法はただ一つ,根のある原発地「グラウンド・ゼロ」で引っこ抜くのみ。コアを破壊しないと倒せない「使徒」や「叫竜」みたいですね。

 

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 これだけ大きくなってもコアならぬ根は一か所のみ。隊長!ヤツの弱点はそこです!

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 引っこ抜けばそれで済むと思う? いいえ,ヤツはすでに次の手を打ってます。よく見て。もうびっしりと花を付けています。抜かれても実は熟し,微小な無数の種子をばらまくのです。一個一個の種子がわらわらと芽生え,芽生えた生物体はすぐに大きくなってまた子をばらまき,増えて増えて増えまくって,人々の抵抗も虚しくやがて大地はヤツらに覆いつくされて文明は滅亡するのです。ほとんどホラーパニック映画。「クローバーフィールド」って映画を思い出したぜ。

 

 私,悪乗りしてますね。そうです厄介な敵ですが,じつは調べるほどに興味深い生物なんです。


 例えばこのコニシキソウ回路という特殊な光合成装置を持っています。これは高温で乾燥した条件の下で,太陽が当たれば当たるほど無限の光合成ができるという魔法のようなシステム。まさに日陰の少ない庭や畑にうってつけの能力です。

 

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 さて,我が庭での様子。この駐車場のコンクリの目地にはジャノヒゲが植えてあるのですが……。

 

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 こんな感じ。うまいこと隙間に入り込みよって。

 

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 タイルの隙間。

 

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 オダマキの花壇に。

 

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 オランダイチゴの畑に。

 

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 開花中を拡大。写っている幅は10ミリほど。意外や,美しいと思いませんか? この赤と緑のコントラストの美しさから「錦草」の名が。昔の人は良く見てますね。ヒトがファッションで着こなすには難しい配色ですが,さらりと身に着けています。どれが一個の花かわかりますか? トウダイグサ科の花は異形と言えるほどに特殊で,いくつかの雄花と雌花が一つになって杯状花序という一つの花のような構造を持ってます。これが繁栄のカギか。

 

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 全長2.5ミリのアミメアリが来ています。なんとコニシキソウの受粉昆虫はアリ。蜜を出す「腺体」に引き寄せられて花粉を体に付けられ,めしべへと運びます。小さなアリ相手なので大きく派手な花は不要。花弁も不要。徹底してダウンサイジング,見事です。アリは種子の散布まで手伝うそうです。

 

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 花の構造。これでどうやら杯状花序のひと単位らしい。

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 拡大して気付いたこと。コニシキソウを食害する昆虫はいないと思っていたのですが,花には必ずこのアブラムシがいました。よくわからないのは,この大きさの個体しかいないこと。若齢幼虫としか思えないのですが,ひょっとしてこれで世代交代をしてる? しかも,アブラムシと言ったらふつう植物に口を刺してちゅーっと汁を吸い続けているものですが,こいつらはずっと動き回っていて,アリからも関心を示されていませんでした。何だろう?

 

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 もひとつ拡大。やっぱりアミメアリとアブラムシがいます。

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 解説付けるのが楽しくなってしまった。

 

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 傷つくと乳液を出します。これは多くのトウダイグサ科に共通する性質。葉を食害する昆虫への防御手段,のはずなのですが,そもそもコニシキソウの葉を食うような気の利いた虫を見たことない。

 

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 前述のように,抜いただけでは種子の供給源になってしまいます。焼却処分,この他に無し。


 原産地は北アメリカ。今は世界中に分布を広げ,沖縄を除く日本全国で地を覆い続けるコニシキソウですが,絶対必要な生育条件があります。渓流を駆けるイワナに清い水が必要なように。それが,他の植物が生えない裸地,ひたすら陽光が当たる場所であること。アメリカの乾燥地帯ならいざ知らず,森の国・日本の自然にそんな場所はありません。人間が切り開いた土地,すなわち庭,畑,道。人の活動の傍らでしか生きられない。無敵の生きもののように書いてますが,本当は生きられる環境の限られた,ほかの多くの生物と同じ儚い存在なのです。ただそれがたまたま,この世界を改変するまでの力を持った絶対支配者・ヒトの生活環境と一致したということ。雑草とはつまりそういう者たちへの蔑称なのです。

 

 「雑草」の逸話を一つ。


「どうして庭を刈ったのかね」とのお叱り。
「雑草が生い茂ってまいりましたので……」とお答えしたところ,
「雑草ということはない。どんな植物でも,みな名前があって,それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方でこれを雑草としてきめつけてしまうのはいけない。注意するように」と諭されたのでした。
   入江相政昭和天皇侍従長(雑誌のインタビュー記事より)


 昭和天皇のお言葉として有名です。同感。もっとも,侍従たちが「雑草」と呼び陛下からお叱りを受けたのはもともと吹上御所にあったワレモコウやオミナエシのことであって,ヒメジョオンやヒメムカシヨモギといった帰化植物は陛下みずからお抜きになったとか。現に私が庭で抜いているのもほとんど外来種コニシキソウも。

 

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 その生を賛美するのと,我が庭に存在を認めるのとは別問題なんです,はい。

 

 

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