茨城生物の会,今日は茨城県自然博物館の庭で野鳥観察です。
いえ,正直野鳥に興味ない。ありゃ我が庭の敵だ。今回は会誌の原稿を書いたのでそれを事務局の人に渡し,知り合いの学芸員に差し入れを渡したらとっとと消えるつもりでした。
なんとなく最初だけ他の皆さんに付いて行くつもりで一緒に歩いていたのですが,そこはフィールド屋の悲しいサガです。専門外とはいえやれカワセミだメジロだと騒ぐうちになんとなく楽しくなり,アカボシゴマダラの幼虫を見つけたりして,結局午前中いっぱい付き合ってしまった。
これはイカンと帰りかけましたが,午後は学芸員さんの案内で開催中の企画展の見学をするという。せっかく来たので昼休みの間に抜け駆けで企画展を見てとっとと帰ろうとしたのですが,この企画展がまた面白い。ずるずる見るうちに学芸員さんの解説が聞きたくなり,居残ってしまいました。我ながらこの主体性の無さは本当に情けない。
企画展「宮沢賢治と自然の世界」。
宮沢賢治。日本人みんなの共有財産と言っていいでしょう。国語の教科書のレギュラー選手。日本人なら必ず賢治の作品を読んでます。となりのトトロ級にわれわれの遺伝子に染み付いた共通言語。…… なので,何をいまさら宮沢賢治,と思っていました。
入り口にいきなり最重要展示物。「春と修羅」「注文の多い料理店」それぞれ初版本。賢治の生前に出た著作はこの2冊だけ。ともに千部ほどしか印刷されず,しかもまったく売れなくてゴミ扱いされたといいます。今ならひと財産。…… すいません,写真失敗しました。
もっと貴重かもしれない。「雨ニモマケズ」の書かれた手帳の本物。この世でただ一つ。
でも今回の企画展は文学がテーマではありません。なんせ自然博物館ですから。
ご存知のように,賢治の作品にはおびただしい数の生物,鉱物,天象気象が登場します。その実物を博物館の収蔵庫かっさらってお見せしましょうという企画と理解しました。
今企画展の「看板展示」。あまりに有名な「銀河鉄道の夜」の路線図。北十字,アルビレオ,蠍の火,ケンタウル,サウザンクロス …… 銀河に沿って物語は進みます。星の世界は,全ての人に公平に開かれた夢の沃野です。詩歌からアニメまで,それを舞台とするものは数多いのですが,賢治の作品はその頂点でありましょう。永遠の名作です。
会場には静かに賢治の作った「星めぐりの歌」が流れています。
各惑星になぞらえた貴石の丸石。
賢治の作品に出てくる生物名,動物108種,植物282種。賢治の作品にはキャラクターとして登場することが多い。その生物の特徴とヒトっぽい人格を併せ持ってストーリーを語ります。科学的というより文学的な扱いです。それにしてもよく数えたなあ。
より科学的,客観的なのが岩石鉱物。実に88種が登場します。人格をもって描かれる場合もあれば,比喩表現の題材にもなっています。
はい,並んでいるのが天河石,孔雀石,黄水晶,藍晶石,藍銅鉱,蛋白石,琥珀,トルコ石の計8種。何だと思います? 実はこれすべて「空の色」の比喩として使われているんです。生半可な知識ではできません。
賢治は石の専門家でした。思惟の中のイメージではなく,具体的な研究の対象として彼が追い求めたのが岩石鉱物でした。今回の展示では,賢治が使ったハンマー,賢治が作成した地質図,賢治が参考にした鉱物標本,そして賢治が採集した岩石が展示されてます。標本のラベルを見て,ああ字が下手な人だったんだなあと知りました笑。
賢治が参考にしたであろう鉱物たち。
立派なメノウ。賢治が生まれ育った岩手県は,茨城県同様メノウの産地です。こんなの拾ってみたい。
賢治の生家周辺でも拾えたようです。
作品ごとに登場するものがまとめられています。
「よだかの星」,読みました。ヨダカがカブトムシを飲み込むシーンがありましたね。
「セロ弾きのゴーシュ」の展示。
展示に当たって一番苦労したのがこの三毛猫。ネコのはく製ってないんだそうです,愛玩動物だから。学芸員さんが探して探して,ようやく見つけたのがこの「模型」なんだって。いい値段したそうで,ご苦労様です。
茨城県自然博物館。かなり県のはずれの,千葉県や埼玉県との県境近くにあります。茨城県民で来たことない人,結構います。駐車場に停められた車のナンバーを見ると,お客さんの半分は千葉・埼玉です。子どもを遊ばせる庭の大きな遊具が人気です。…… なんでもっと便利な場所に作らなかったんだろう。
いえいえ,他県だろうとお客さまが来て下さるのは大歓迎です。常磐高速道「谷和原」IC から20分ほど。展示は見ごたえあるし,遊具はあるし,夏には子ども達が水浴びできます。学芸員さんたちはみんな一生懸命です。展示・広報・研究・記録。私の好きな久慈川メノウもすごいのが展示してあります。自然物に関する茨城県最高の研究施設です。どうぞ一度お越しくださいませ。博物館ショップも充実しております。