昨年の夏のこと。高校生を連れ回してくれないかと頼まれました。あ,男子です。
よくわからないままよしきた!と安請け合いして,池やら森やら海岸やら,私のフィールドを連れ回しました。
その彼が平磯海岸の岩場で見つけたのがこれ。
オオブンブクの殻。
棘皮動物の,ブンブクウニの仲間。作ってませんよ。そういうグループがあって,代表種がブンブクチャガマって言うんでグループ名がブンブクウニ。いや作ってないってば。一般の人の目に触れないだけで,けっこう繁栄しています。
でも平磯で初めて見た。40年以上通っている場所なのですが。
大きさはこんなもの。小型種が多いブンブクウニの中ではかなりデカい。大きいもので10センチになるそうで,生体を持ったらさぞやズシリとくることでしょう。
殻の頂部に生殖孔。ウニでは5個ですがこれは4個。基本的に放射相称(5軸)の棘皮動物にあって,これは珍しい左右対称なのだ。
これは肛門。ちなみに一般のウニの口器「アリストテレスの提灯」は持たないそうです。食べ物が違うから。
生体ではこのイボの一つ一つに棘が生えてます。
こっち見んな。…… いや,怖いマスクの目に見えません?
ブンブクウニの外観上の特徴,上面の大きな溝。「花紋」と言って,棘皮動物独特の「菅足」が呼吸専用に特化したものが生えている場所です。呼吸帯とでも言うべきか。
棘皮動物というだけで変なのに,これはまた思いっ切り変な生き物です。生きてるのを採集したくなりました。海底に暮らすものなので潜らない私には難しいけど。殻だけでもよく見つけたものです。高校生侮りがたし。
この高校生,道道聞いてみるとものすごく生き物が好きな子で,大学で生物の研究をしたいと思っているそうです。野山を歩いては採ってきたものを飼育する,かつての私と同じようなことをしている。トウキョウサンショウウオの卵のうが雨で路上に流れ出たのを拾って,自宅で手足が生えるまで育てて元の場所に帰したとか,思わず涙が出そうなことを言うもんなあ。
こんな子を,都会のビルだけ大学に入れてはいけない。彼を私に託した人も,受験勉強の指導を願ったのではないでしょう。私は私のやり方で,彼のモチベーションを支えてやれたと思います。その後無事に,自然豊かな地方国立大学農学部の,学生に好きなことをさせてくれる所に合格できました。
このオオブンブクの殻,ずっと私の手元にあったのですが,彼が持っていたほうが世のためと思ってました。この夏遊びに来るというので百円ショップのもので標本っぽくしつらえて渡しました。喜んでくれたので,それで良し。