ハマナスです。そうあの,知床の岬に咲くというアレです。漢字で書くと浜梨です。 …… あれ?
この実が梨のようにおいしいというのでハマナシと呼ばれ,シとスが不明瞭の東北弁で語られるうちにナスになり,とどめに森繁久彌がナスと歌っちゃいました。で,ナシでもナスでもいいけど,本当はバラなんです。とてつもなく大輪で,芳香を持ち,群生する野生のバラなんです。学名ロサ・ルゴサ Rosa rugosa。外国でも園芸用に喜ばれ,バラの品種改良の原種の一つにもなりました。
北の浜辺のイメージですが,実は太平洋側は茨城県まで自生してます。果実にはビタミンCが豊富というので,海岸にあったのを採って食べてみました。…… あまりおいしいとは思えませんでした。種があったので,クサボケの時と同様にラティスの下の,アスファルトとの1センチほどの隙間に蒔いてみました。芽が出た!と思ったら,さすが頑強な海浜植物。あっという間に大株に育って,次々と花を咲かせるようになりました。
大株になるほどに,うちの家族が難色を示すようになりました。原因はこのトゲ。家の前の市道にハミ出してます。ご近所さんにケガさせたらどーすんだとのこと。いやほんとに,なんなんでしょこのすさまじい武装。綺麗な花にはトゲ云々というのをこれほど露骨に実践している例を,他にはあまり見かけません。
とはいえ,これも海浜植物の常として強大な地下茎をすでに張り巡らせているはずです。掘るにしても1センチの幅,引っこ抜くにもあのトゲ。どうしようもないじゃん,と思ううちにクサボケの段でも書いた舗装工事が始まりました。成り行きに任せていたら,工事の人いわく「いや~抜くのに苦労しましたよ」。なんと古いアスファルトを剥がしたところで,地下茎をきれいさっぱり取り除いてくれたのです。あのトゲどうしたの?
で,我が家と道路の間に隙間は無くなりました,と思ったら。
出ちゃった。
地下茎のかけらが残っていたんでしょうねえ。この写真,12月ですよ。なんかマンガみたいにアスファルトのかたまりをでーんとひっくり返して。
そしてまたあっという間に成長を遂げました。どうだ負けねーぞとばかりに繁茂し,ほれ見ろとばかりに花を咲かせます。完敗ですね,私の。
それにしても感心するのは,小さな虫たちからのこの木の好かれ具合。アスファルトとコンクリートとレンガに囲まれた世界では,岩盤を衝いてそそり立つただ1本の木は,広大な砂漠にぽつんとあるオアシスなのでしょう。
花にはハナバチたちが集まり,葉は名も知らぬ幼虫やハバチに食われハキリバチにまで持っていかれ,カイガラムシに汁吸われ,根際には落ちてくる枯れ葉を当てにダンゴムシやワラジムシが住み着き,シワクシケアリまでもが巣をつくりました。
しかしハマナスは動じません。食われようが吸われようが,日照独り占めなのを良いことに光合成をしまくり,食われる何倍ものスピードで枝を伸ばし葉を広げ,ひと夏花を咲かせ続けます。
よーしよくわかった。根絶はやめた。育ったら切る。このパターンでいこう。せっかくなので花を楽しませてもらってから。
ちょきん。
ぎこぎこ。
どうせすぐに復活しちゃうんでしょうけどね。
スミレの時に女性を花に例える話を書きました。さてこのハマナスに当てはまる女性はいるかな? 派手に美しく,芳香を振りまき,トゲで武装し,とてつもなくしぶとく逞しい。 …… ちょっとどんなのか想像できません。少なくとも私の平凡な人生では出会ったことのないタイプです。皆さんの周りに,こんな女性はおられますか? ちなみにハマナスは皇太子妃雅子さまのお印でありますが,美しさ以外の上記の要素はあってほしくないなあ。
とにかく教訓。ハマナスを庭に植えてはならない。きっと手に負えないから。美女とはそういうものです。
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