いつもの読者の皆さんごめんなさい,発作のように炸裂するテレビ評です。今回は無視して結構でございますよー。
1月,4月,7月,10月。テレビの各クールごとに始まる深夜のアニメっぽいのをすべて録画してチェックしてます。つまらないものから順に予約録画を取り消していって,さてクール終了まで残るのあるかなーというのが密かな楽しみ。たぶん職場の人たちは私がアニメを見てるなんて思ってもいないだろうなー。
さて今期,というのは4月はじまりのクールでしたが,最後まで楽しみにできて,ブルーレイに残そうかなと思えたのは3つ,いや2つ。アニメは1つだけです。
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…
番組HPhttps://hamehura-anime.com/onair/
いかにもラノベ原作丸出しのタイトルのアニメで,最初は全く期待していませんでした。私が心からバカにする「異世界転生もの」らしいし。ところがこれが。
スジはこうです。「乙女ゲーム」にはまっていた女子高生が交通事故で亡くなります。そして目覚めたのは……その乙女ゲームの世界。しかも自分は王子様と結ばれる主人公ではなく,あろうことか,主人公に嫌がらせを繰り返したあげく最後に破滅を迎える悪役侯爵令嬢カタリナ・クラエス,その幼少期! さあ大変,せっかく転生したのにまた人生途中退場か? いや破滅ゲームの開始までまだ日がある。何としてもこの世界で生き残らねば! 悪役令嬢カタリナの破滅回避に向けた涙ぐましい努力の日々のはじまりです。
さてこのカタリナ。本人は自分が悪役で,最後に必ず破滅すると信じているものですから努力する方向も斜め上。切り殺されぬよう相手の苦手なヘビのおもちゃを投げつける練習をしたり,国外追放になっても食べていけるよう農業に精を出したり。その一方で自分がどのルートで破滅するかを察知するために周囲への気配り怠りなくコミュニケーションに努めます。とにかく日々一生懸命。よくわからない一途な姿が周囲を引き付けます。本人が気づかぬ間に,王子さまやら美男の貴公子やら義弟やら果ては同性の貴族令嬢から元ネタゲームのヒロイン美少女まで,みんながカタリナを思慕することに。何のことはない,自分が乙女ゲームの主人公になっていたのです。最後まで本人は気づいていませんでしたけど。明るく前向きな努力家で,他人への気配りも忘れず,何をやるにも一生懸命。そりゃあモテるわ。
宿命の乙女が自分で運命を切り開いていくラブコメ,です。一歩間違うとよくあるご都合主義に陥るところを,コメディを織り込んだ巧みな演出と魅力的な人物造形で乗り切りました。毎回泣かせて笑わせて,いつも次週が楽しみになりました。きっと原作がしっかりしているうえに演出が力のある人で,製作スタッフにも良い方向付けがなされていた結果でしょう。主題歌が明るく楽しく凝ったもので,番組内容によくマッチしていたのがその表れ。作品作り・チーム作りの成功例,その見本にしたいレベルです。
同期の他のアニメには「作らされてる」感ありありの,空中分解に等しいレベルのものが多かったので特にそういう感想を持ちました。演出に力がない,スタッフがやる気ない。視聴することが苦痛というか苦行というか,そんなのばかりだったなあ今期のアニメ。
番組HPhttps://www.thunderboltfantasy.com/season1/
というわけで,なんとこれは人形劇。しかも台湾の人形劇専門スタジオが製作。古代中国ふうの世界で剣豪たちが覇を競う「武侠もの」というジャンルです。どうやらパート2まであってすでに放送済み,今年パート3を放送するその景気づけにパート1を放送したようです。不覚にもこんな面白い作品があったことに不明でありました。結局パート3はコロナの影響で製作中断のようですが。
登場人物や舞台設定がすべて漢字なのでキャラクターやストーリーの紹介はやめておきます。すごく読みづらくなるので。とにかくこれは実物を見てほしい。
感心したのは台湾の人たちの,エンターテイメントに対する真面目な姿勢。例えば登場人物。魅せるとこは魅せ,キメるところはキメてストーリーを締める主人公。適当に強く適度に足手まといのヒロイン。権謀術数あり,裏切りあり,脇役に至るまでキャラは立ちまくり,容赦なく死にまくる。これぞ物語。大人の楽しめる人形劇。台湾の人は客の喜ぶ要素をきちんと心得ていて,客のために作品を作っていると痛感しました。対して日本のアニメの主人公の,ただ巻き込まれるばかりの主体性のなさ,すぐグジグジと自問自答を始めるかっこ悪さ。見ていてイラついてしょうがなく,叩き付けるように見るのをやめた作品の多いことったら。え?最後には主人公が強くなる?最終回まで見れば謎が全部解ける? …… 馬鹿野郎。
とにかくその場で客を楽しませろ。どんな通俗的な演出でもいい。心理描写の長回しなぞおマエの自己満足に過ぎないのだ,アニメしか見ずに大人になったラノベ作者やアニメ監督よ。
演出だけではありません。登場する人形たちのきらびやかなこと。男も女も豪奢な衣装に宝石をちりばめ,これ以上はないというまばゆいビジュアルでそれだけで画面に釘付けになります。操演が巧みなのはもちろん,人形劇とはいえ必要に応じてCGを組み合わせる構成で飽きさせません。十分に21世紀の娯楽作品でした。
どうやら制作を発注したのは日本側のようですが,公式HPのキャラクター紹介に,日本人が描いたいかにも今どきアニメ風の設定画が付いています。本当にありきたりのアニメ絵。これではダメだ。日本人が普通にアニメにしたらさぞつまらない作品になっていたことでしょう。いかに日本の「現場」がパターンに染まり,毒されているかを実感します。
これから創作は台湾の時代かもしれません。
ギリシャ神話劇場 神々と人々の物語
タイトルに騙されてはいけません。徹底してふざけた,バカバカしさを楽しむ番組でした。あ,実写です。あっという間の15分番組でした。
とりあえずギリシャ神話の登場人物(主役はエロスとイカロス)が次々と出てくるのですがまあ名前だけ。ただ間抜けなドタバタ喜劇が続きます。
特筆すべきは,演じているのがすべて男だということ。少年からおっさん,美少女におばはん,ぜんぶ男。美少年からおデブまで幅広い役者を揃えているけどけどすべて男。ちなみに私が名を知ってる役者さんは一人もいませんでした。いったいどこのタコ部屋から連れてきたんだ,この人材の山。
すべて男が演じるというのはそのまま古代ギリシャ演劇以来の伝統であるし,近年でもモンティ・パイソンからドリフまで多くの喜劇の基本形態ですね。その意味では真面目に,しかし本当におバカに作られた作品でした。エロスはひたすらエロを追求し,アポロンは街で占い屋を営み,ハデスは金髪に山高帽の中二病。もう楽しくて。
全話録画してCMカットまでしたのですが,ひと息付いて冷静になったらそれ自体がバカバカしい行為であることに気づきました。ブルーレイに保存する価値のない傑作,ということで。
仕事が楽になり,こんな道楽に時間を割けるようになったことに感謝です。最近は長らく封印していた絵も描き始めました。本も読めるようになりました。人間の時間を取り戻しつつあります。この夏はどう過ごそうか,あれこれ算段しております。
↓ ランキング。さすがに今回はお願いしづらいです。