ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

一銭にもならんスキルで初モノに出会う

 

 特に何かを期待したわけではありません。カメラにマクロレンズを装着したつもりが実はズームレンズ、まあいいかなんて思う程度に。先の「色」記事のネタ探しに、野外を軽装で歩いたんです。何か赤い実でもあれば、くらいの軽い気持ちでした。

 


 山と里が接するあたり、苔むした舗装道路が森へと消えていきます。道の片側は資材置き場が放置された草むら、もう一方は管理放棄の荒れた林。道端は1回くらいは草刈りされたかな、程度のガサやぶ。茨城の農村によくある、バブル期にお百姓さんが建設業に手を出してやがて廃業しました的な、私の目で見たら由来も含めて何一つ誉めるところのない土地です。足早に通り過ぎようとしたのですが、ちょうどこの写真の場所を過ぎ行こうとして不思議なことが起こりました。頭の中でビーッと警報ブザーが鳴って、ぴたりと足が止まったんです。まるで身体に備わった一連の反射行動のように。なんだなんだ。


 以前に「生物屋の眼」というお話をいたしました。頭で判断するより先に眼が見つけるという、フィールドで永く過ごした者だけが体得する秘術です。どうやら発動したようです。

 


 これに対して。そうです、昨年も今ごろ探索に日々費やし大騒ぎをしていた天然の神秘。冬虫夏草ヤンマタケです。

 


 自分で驚きました。そもそも今日は軽装で、近所を散歩するような感覚で、しかも足を速めて過ぎ行こうとした場所です。ヤンマタケなんか予期してないし、何より意識的には何も見てない、何も探してない状態だったんです。でも見つけてしまった、この眼が、無意識が。ヤンマタケを探索しすぎて、眼が風景の中からヤンマタケを勝手にパターン認識して勝手に反射行動を起こしたということです。なにこれちょっと怖い。というかいらん。いらんわ、そんな一銭にもならん無駄な能力。


 あああ、世の中の同世代はパチンコ台の釘を読むとか明日の株価チャートを幻視するとかおウマさんの足の張りからレース結果を予想するとか、今この瞬間も実利ある修行を積んでおられるというのに、わしはナニが悲しゅうてこんなスキルを身に付けてるんだ、しかも知らぬ間に。


 というわけで貴重な自然の宝の初モノをゲットした喜びよりも、我が身が体得したあまりにもしょーもない能力のその情なさに驚き愕然としています。え?ナチュラリストなら喜べって? いや浮世離れもここまでくるとさすがにじくじたるモノがあるのです。

 


 それにしても人家が見える場所です。一昨年の記事で「ヤンマタケは人里にはない。ヒトの気を嫌うのだ」てなことをエラそうに書いてましたが、これは訂正すべきだろうか。さらに言うなら、ここは水辺から 50 メートル以上離れています。これまで沢沿いばかり探していたそのやり方を改めなくてはならないのかも。うーむ。

 


 気を取り直して観察します。トンボの翅は落ちてましたが、胸の斑紋から宿主はノシメトンボと判断できます。

 


 各節からキノコを出していて、生育状態は良好です。今回は採取せず、初夏まで成長を観察しようと思います。

 


 冬ですが菌類(キノコ)には活動期のものもあります。これは冬キノコの代表エノキタケ。そうですあの鍋に入れるエノキタケ。スーパーで売ってる白いのはもやし栽培されたもの。それとは比較にならないほどこの天然物は香りもうま味も絶品です。

 


 切り株にも冬の生命が宿ります。

 


 オレンジ色のつぶつぶ、直径1ミリの半分くらい。これも菌類です。

 


 この手の微小キノコを網羅した図鑑は存在しないので、名はわかりません。でも確かに、冬の森に生きるものです。

 


 冬日に養分を蓄えるヒガンバナ、冬を選んで恋をし子孫を残すフユシャク。冬にせっせと働くアリもいました。なぜか冬を挟んで長い長い時間を成長と成熟に費やすヤンマタケもまた、この季節を貴ぶものです。静かな森でひとり思索にふける、そんな生き方を好ましく思います。この冬もまた、探し歩いてみるつもりです。

 

 

 

 

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