2025 年3月 20 日(祝) 水戸芸術館
集まったボランティアの皆さんにトラックの荷台から引き出されるのは
着色された風船素材の巨大な袋
全長 50 メートルになります。
展開されたままだと車に轢かれた虫ですけど
送風機がお仕事すると
どーん
ついにその全貌が明らかになりました。そうですこれは巨大バッタのアートです。
最後にこの触角がピーンと立ったときは拍手が起こったり。
とはいえ汚れや痛みが目立ちます。実は今回のこの作業、展示鑑賞が目的ではありません。それは未来のために。永劫の驚きのために。
展張が完了したところで
飛び回るドローン。最新技術で画像から3Dデータを作るのが目的なんです。
これは現代美術家・椿昇と美学者・室井尚の手になる巨大アート「飛蝗(プロジェクト・インセクト・ワールド)」。横浜トリエンナーレ 2001 のために制作され、紆余曲折を経て水戸芸術館に買い上げられました。横浜ではずいぶん評判になったようですが、なんせ 24 年前の作品。もともと長期の展示や保存に耐える素材ではなかったし、何よりデカさがアダになりました。そこでクラウドファンディングで費用を募り、3Dデータに残すという今回の企画になったわけです。おかげでこうして面白い写真が撮れました。
芸術家の仕事は人を驚かすこと。正確なデッサンによるモデルの再現とか、奇抜な色彩で美の衝動を呼び覚ますとか、音楽なら心動かすハーモニーであるとかその手法は様々です。でもとにかく美術作品においてのデカさというのは間違いなく驚きです、文字通りに。圧倒的迫力で見る者の口をあんぐりさせ、うわ~ とかひえー とかの感嘆詞を絞り出させる、デカさは芸術。デカさは正義。
何よりも巨大な造形物は、人におのれの矮小さを思い出させます。万物の霊長なんて威張っていても、しょせんオマエはこの程度。デカいバッタにひと呑みだよ。自然災害を待たずとも、芸術はそんな警句を人々に発することができます。このヒトを圧する人工の生命体も、3Dデータとして混迷の世に残るという。自然に対する畏敬の念を忘れかけている現代人に、巨大バッタはメッセージを放ち続けることでしょう。
↓ 昨年の展張には結局行けませんでした。
↓ どうか。