ゼンテイカ、という正式和名では通じないことが多いので、この記事ではニッコウキスゲで統一します。ご存じ、夏の高原を埋める花姿で知られる名花です。水戸では5月に開花します。
なじみの読者さまはこれもご存じ、水戸で見つけた2カ所の生育地を何回か記事にしてきました。
西部丘陵の産地は激しく盗掘に遭い、唯一老農夫に守られていた斜面はかの人が姿を見せなくなってヤブに埋もれました。
市街の谷間に奇跡的に残された群落は今のところ無事です。でもいつ誰の気まぐれで開発・造成されるかわからない。せめてこの個体群の遺伝子だけでも残さねばと種子を 20 個ほどいただき、蒔いたのが 22 年の夏。
芽を出したのが5個、定着したのは2株だけ。呆れるほど低い生存率でした。この2株を定植して
24 年の5月、なんと花をつけました。いやあ嬉しかったのなんの。サボテンすら枯らす私ですから、神の加護があったとしか思えません。とにかく大事にしようと誓いました。
そして4年目の今年。株は大きくなり、二つの太い花茎を伸ばしました。そして開花。もうまごうことなきニッコウキスゲです。ここを気に入ってくれたようです。その生を脅かす者は何もなし。どうか安心して増えてくれ。
で。
5月11日、今年の母の日。老母をたまには喜ばそうかと、朝一番に花屋に行って、バラとカーネーションのオーナメントを奮発してみました。帰宅して手渡すと大層喜んでくれました。そのままフィールドに出かけて
帰宅したのは3時過ぎ。ああ疲れたなとリビングを見まわしたら
ぎゃああああ
…… 本気の絶叫でした。こんな声を出したのは久しぶり。台所にいた家人をかなり驚かせましたが、私の動揺はそれどころじゃない。はい、老母のしわざです。開花した花茎を二つともぶっつりと。生け花の素養が災いして、花だけでは寂しいと葉の束まで、株の根元からぶっつりと。
ああこの感情をどう表現したものだろう。大切に大切に見守ってきたものを突然奪われました。しかも家族に。
事情はわかります。バラとカーネーションに気分がアガって、もっと花が欲しくなったんです。そして今いちばん庭で目立つ花です。当然の帰結でした。
この日の夕食時、なるべく静かに、花瓶に咲くこの花を見ながら母に言いました。これは種から育ててもう何年も大切にしてきた花である。本来は次々と新しい花が開いてあと2週間は楽しめたものである。もう今年はこれでお終い、花も新芽も出ないものである。…… 言ってるうちに不覚にも涙がにじんで参りました。
母を責めるつもりはありません。87 歳といえば人によっては老衰でとっくに召されている年齢です。ひと言この花のことを言っておかなかった私も悪い。それに花を伐ったことで養分が株全体に渡り、また来年の花となることでしょう。
でもとにかく私のダメージが大きかった。この夜は日課の筋トレその他をすることもなく、早々に寝てしまいました。…… 翌日には立ち直りましたので、どうかご心配なく。
ニッコウキスゲ。美しい大輪の花は賞賛され、愛でられ、時に事件の遠因になったりします。世の美女と言われる方々も、日々こんな騒ぎを巻き起こしているのだろうか。まあそれも、振り返れば愛しき日常の1ページであります。
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