久しぶりに,市内の秘密の森にやってきました。何が秘密かって? それはおいおい。
さっそく現れたのはミヤマクワガタのメス。9月も半ば,しかも今年はかなり低温なのに,頑張ってるね。
念のためひっくり返して足の色を確認。うん,ミヤマだ。
怒ってます。ゴメン。いい子を産んでね。
さてこの森では,不思議なものが見られます。これ。
高さ2~3センチ。こんな小さな泥の塔が,林床のあちこちに固まって立ってます。たいてい穴が開いてます。 こんな感じ。
実はこれ,ツクツクボウシの幼虫の脱出口なんです。このセミ,街中で羽化するときには他のセミ同様にいきなり地面に開けた穴から地上に出るのですが,森の中では泥の塔を地上に押し上げて,中のトンネルでしばし外の様子をうかがってから,塔のてっぺんに穴を開けて地上に降り立つのです。面白いなあ。
たまにこの塔を作っている最中に出くわすことがあって,幼虫はトンネルの中から泥をこねているものですから,まるで泥が自分の意志でぐにぐにとうごめいているようで結構見ものです。また,手際良く塔の下にスコップを差し込んですくい上げれば,幼虫を生け捕りにできます。
しかし! 今日この森に来た目的はこれじゃない。この泥の塔のそばによくある,これです。
掘ってみると,こんなんだあ。
はいこれ,キノコです。冬虫夏草のツクツクボウシタケと申します。名の通り,ツクツクボウシの幼虫に寄生してこれを殺し,虫の内部を食い尽くして菌糸で満たし,やがて地上に子実体,すなわちキノコを発生させる,恐るべきプレデターです。驚くべきはそのタイミング。たぶんこの菌は土中で幼虫を待ち構えていて,何も知らぬツクツクめが土を掘ってやってきたところで感染。しかし土中深くで殺してしまっては,地上までキノコを伸ばすのが一苦労。幼い幼虫では資源量もたかが知れてます。そこですぐにでも食い尽くしたいのを我慢して,獲物が木の汁を吸ってゆっくり成長するのを待ちます。ふふふ,早く大きくなりなさあい・・・ そしてとうとうセミが羽化するために地表近くまで上がってきたその瞬間に命を奪う! なんだよ,怖いじゃないか。
今年は忙しくて,今日ようやく発生の様子を見に来れました。本当は8月後半がシーズンです。発生地はごく限られていて,市内ではこの森だけ。でもその発生地では,感染率というか発生量がハンパない。1メートル四方に20個体も生えていることもまれではありません。セミの幼虫がこんなにいたのかというのも驚きですが,そこではほとんどのセミがキノコに食われているのでしょう。間違いなく,ツクツクボウシ最大の天敵です。
時期を外し,低温のせいもあって数は少ないですが,目が慣れてくるにしたがって次々と。
冬虫夏草ってどうやって見つけるの?とよく聞かれますが,要するに「慣れ」です。慣れた瞬間,目の前にそれまで見えてなかったものが見えてきます。
ひと儲けできるじゃん,とも言われますが,自然にあるものを商売にした瞬間から,たぶん私はナチュラリストではなくなってしまう。そこら辺の浅ましいキノコ採りや山菜採りのおっさんと同レベルになってしまうでしょう。もう少しはカッコつけて生きていたいんです。
さて採集は続く。地上部の高さ1センチ。
ざくっ
こんなん出ました~
脱出口からも
こんなん。
他のキノコもいろいろ出てました。エリマキツチグリ。
キツネノハナガサ。きれい。
オニイグチ科かな?
ビョウタケ。直径1~2ミリ。こんなに小さいのに,ちゃんと柄があることを今日初めて知りました。
ヒバカリが出た! 昔は猛毒と思われていて,咬まれたら命は「その日ばかり」と言われたそうな。
マトリエル,じゃなくてザトウムシ。なんかにたかられています。足をダニにたかられてちゅうちゅうされているのに払うこともできないでいるのをよく見かけます。哀れ。
今日の収穫。40弱。季節外れの割には取れたほうでしょうか。薬酒にします。
樹種も限られた何の変哲もない森なのに,いろんなものが生きてました。この森が,ずっとこのままでありますように。
訂正しときます。今回のタイトル,ツクツクボウシの森にてじゃなくて,ツクツクボウシがいっぱい食われている森にて,でした。
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