びらん性の毒というのは厄介なものです。遅効性で、じわじわと、そして永く人を苦しめます。びらん性毒ガスの代表、マスタード・ガスは19世紀後半に開発され、両大戦で使用されました。1943年にはガス弾を満載した米貨物船が空襲で破壊された際に漏れ出して、それはそれは悲惨な被害を友軍や市民にもたらしました。
皮膚などに潰瘍を生じさせるこの「びらん性」という性質、身近なものではウルシが知られます。触れた者に不快な被害をもたらすこの作戦、自然界では割と有効なようで多くの動植物が実践しています。そういえばギネス認定「世界一危険な木」マンチニールもまず皮膚を害する魔樹でした。
さて何を言い出したのかというと。
4月末の蒸し暑かった夜、網戸に風を通しました。翌朝、寝部屋の布団を上げたところ、畳の上に虫が一匹。
網戸をすり抜ける大きさです。
まあ見てやってくださいこの配色。オレンジと青なんて、警戒色以外の何物でもない。スズメバチやマメハンミョウと同様、自分が毒持ちであることをアピールしています。
さてこれは何者か。以前この部屋に畳に巣くうシバンムシというのが出たこともありましたがこれは違う。よく知る仇敵です。その名もアオバアリガタハネカクシ。
青羽蟻型翅隠とはいかにも昆虫屋が付けた即物的な和名です。俗にはヤケドムシという名もあってこちらのほうが実態を表しています。体液にびらん性毒のペデリンというのが含まれていて、皮膚につくとヤケド様のひどい潰瘍をもたらします。田んぼのわらの下でよく見かける虫ですが灯火に惹かれて人家に入り込み、うっかり潰した人をえらい目に遭わせます。むかし妹がやられました。
幸い今回は被害なし。暗く狭い場所が好きってんで布団の下に入り込み、圧死したようです。見つけたときはまだ足をぱたぱたさせてましたがすぐ大人しくなりました。ほんと、潰さなくてよかった。密閉のいい高断熱住宅ですがまれにこういう闖入者もあります。昔ながらの開放的な家、屋内と野外が縁側を介して境なくつながって、ヘビも蚊もムカデも平気で上がり込んでくるような家にかつては住んでいたことなど、今となってはぞっとします。
しかし今の我が家、田んぼからは遠く離れています。こいつはどこから来たのだろう。まさかうちの庭で繁殖しているとか。いやまさか。
↓ 虫ネタだしなあ。