ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

「忘れじの谷」再訪

 

 天気予報は3日間だけ最高気温が 30 度を下回ると告げました。1日目は駅歩きのあとツクツク森へ。2日目は花園のブナの森をさ迷い、3日目は道を突き詰めた森を尋ねました。3日間で 30 キロくらい歩いたとて、何を得たということもありません。その3日目の記録をどうぞ。 あ、写真三枚目に足の多いやつの脱皮とか、以後も虫とかクモとか異形のキノコとかありますのでご注意ください。

 


 3日目の場所として選んだのは阿武隈高地南端、かつて「ざくろ沢」と名付け「忘れじの谷」と呼んだ谷間のドン突き。春3月に林道を上り詰めたら清澄な森に行き着いた、精霊の気漂う、とその時感じた森です。林相がツクツク森に似ていて、夏には何か出るぞ出るぞと狙いを付けていました。車止めの鉄扉があるので愛車よここで待て。さあ4キロ登るぞ。


 今日は歩いて到達して、見て帰るのが目的です。よってカメラはコンパクトデジカメ(名前はまだない)だけ。いやあカメラ機材がないと軽くて楽だ …… いかんこれは堕落の始まりではないのか。

 

      
 気温低めとはいえ陽射しは強い。なるべく日陰を歩きます。車止めがある割には車の通ったワダチがしっかりあるし、草刈りもされてます。この道沿いに権利のある人は鉄扉を開ける鍵を持っているし、群れ成してマウンテンバイクを乗り回す人たちが集まる場所でもあるんです。決して人けの絶えた道ではありません。

 


 でもこんなもんが生きてます。枝先でゲジゲジの親分オオゲジが脱皮してました。よくもまあこんな目立つ場所でするもんだ。

 

     
 大雨で根元がさらわれたのでしょう、スギが倒れてます。そんな雨があったか。

 


 虹色の光が日なたの地面を流星のように飛び交います。ハンミョウ、久しぶりに見ました。

 


 ミヤマクワガタも落ちていた。最近オスの生きてるのを見てないなあ。

 


 ミツバチの巣箱がありました。そろそろオオスズメバチの襲撃がある季節なので金網の補殺機が取りつけられてます。

 


 ジョロウグモの巣にウシアブとミツバチが仲良く捕らえられてたり。

 


 ハルニレ林を抜けて

 


 かつては林道のドン突きだった池に出ました。いつの間にか林道は延長されていて、ちょうど山の向こうから車がやって来ました。小型トラック、荷台には周囲の森で伐ってきたと思しきヒサカキの枝が束になっています。市場に卸すのでしょう。すっかり人のたつきの場となっています。

 


 ともあれ森の入り口です。身づくろいを確認します。これはシャレでなく、森では何があるかわかりません。鬼が出るか蛇が出るか。準備と覚悟と謙虚な心で。

 


 春にツクツク森に似ていると思えた森。案の定かの森にもあるエリマキツチグリです。

 


 キツネノハナガサもツクツク森で見かけます。

 

       


 次々と現れる夏キノコたち。

 


 寒いの? いつでも明るく健康そうなタマゴタケですが、たまにこんなのもいるようです。


 こっちがフツーのタマゴタケ。

 


 何とここでもコナラがキクイムシにやられてた。

 

       
 と思ったら驚いたことにカエンタケまでありました。この珍菌を2日連続で見るとは、やはり異常な状況と考えていいと思います。


 で、肝心のというか本目的の冬虫夏草は。

 


 しばらくは何もなく、落胆しながら歩いておりました。そして森の一隅、落ち葉が降り積もった中に赤い頭部。

 


 ようやく冬虫夏草カメムシタケです。8月にまとめて見ているのでなんだまたかと思ってしまったことは正直に申し上げます。あの時は9個体見つけましたが…… あれ?あれ?

 

     
 次々と赤い綿棒みたいなのが目に入ります。わああなんだなんだ。

 


 結局この一地点だけで 20 個体を掘り出すことになりました。さあこれはどう解釈したものだろう。これだけの数の冬虫夏草をまとめて見つけたのですから間違いなく大漁です。専門用語でいうところの「坪」に当たったという奴で、文句言うスジではありません。でもなんか違う。春にこの森を見た印象では、多種類の冬虫夏草、例えばツクツクボウシタケとガヤドリタケと…… なんて感じで複数種が発生して私を狂喜乱舞させる、そんな森のはずでした。期待値を上げ過ぎた。

 


 ここが塵埃から遠い森なのは間違いありません。ただ残念、人の往来はあり、足跡とタイヤ痕が神気を乱していました。ツクツク森のような異界に繋がる神殿ではなく、神話の生まれる土地でもなかった。それが確認できたことが戦果と言えば戦果でしょうか。聖なる森を探し巡る私の行脚はまだ続きそうです。

 

   
 谷を吹き上げる風が、盛夏の頃とは違う香りを運んできます。まだ暑い日はあるでしょう。それでも夏の終わりが感じられる、そんなフィールド行でした。

 

 

 

 

↓ 森を巡る日々に行き着いた、忘れじの谷。

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