ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

師匠とムモンアカシジミ

 

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 性懲りもなくまた花園へ行ったのですが,暑かった。本当に今日は暑かった。


 標高600メートルは低山のうち。下界とそう気温が違わないのに油断してバッグに水を用意しませんでした。山中を歩くうちに脱水症状になって,大したものも見ぬうちに撤退の憂き目に。


 唯一見たのは

 

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 木漏れ日がそこだけ当たる地面に赤いものが

 

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 導かれるように寄ってみると細長いキノコ状のもの。これ知ってます。

 

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 冬虫夏草カメムシタケ。しかもこれは胞子を作らない「不稔型」です。ただカメムシを殺すだけで子孫を残さない。不思議なことに,カメムシタケにはこういうものがままあります。何のために。 …… すいません,暗い森の底で片手で撮ったのでブレ写真です。


 で,その10センチ横のカエデの幹に

 

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 うわああ,お前いつからそこにいた。

 

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 ミヤマクワガタの雌がじっと見てました。まったく気づきませんでした。なんだか恥ずかしい。どう恥ずかしいかというと,立ちションをずっと見られてたくらい恥ずかしい。ちなみに私は雌を採集しません。次世代の個体群を維持させてやりたいから。元気でね。


 この後意識が遠のいて,ヒイヒイ言いながら車に戻って水を飲み事なきを得ましたが,また森に戻る気にはなれず帰ることに。


 その帰路にいたのです,師匠が。


 林道の傍らに止められた車に,もじゃもじゃの髪と丸い顔,がっしりした体。子連れのツキノワグマに雄グマと見間違えられたという姿。それが巨大な捕虫網や昆虫トラップ装備を持っています。久しくお会いしてなかったけど,私の昆虫採集の師匠その人に間違いありません。このあたりをフィールドにしておられるので居ても不思議ではないのですが,変わりない姿にうれしくなってしまいました。


 気まぐれで方向性がないのをゼネラリストと称して胡麻化している私と違い,師匠は昆虫採集のスペシャリストです。昆虫採集に関しての知識,技術,情熱,行動力,何より昆虫愛! どれ一つ私は勝てません。エクアドルだろうがジョージアだろうが,師匠は目的を定めると地球の裏にだって飛んでいきます。何より偉いのは,秘密主義者の多いそこらの昆虫マニアと違って,私に貴重な採集地や生態の秘密を惜しげもなく教えてくれること。私より五つ六つ年上だったと記憶しますが,この人がなければ見られなかった,知りえなかったことがたくさんあります。ひそかに勝手に師匠と呼んでます。定年で退かれて以来お会いする機会がめっきり少なくなってました。


 最近どうしてる?なんて世間話の合間にも,飛び来る蝶を見逃しません。あれは〇〇,それは✕✕と,本当に動体視力がいい。しばし夏の蝶を優しく見送っていた師匠ですが,突然目の色が変わりました。


 あれ,ムモンだ!


 そう叫ぶと伝家の宝刀・巨大捕虫網を構えて駆け出します。


 え?え? ムモンて,ムモンアカシジミ? こんなとこに?


 そう,この下にクヌギがあるから,いるんだ。


 説明します。ムモンアカシジミというのはゼフィルスという一群の貴重なシジミチョウの中でも特に希少なもの。幼虫がアリに育てられるという特異な生態を持ち,ものすごく分布が限られる蝶で,私は確実に見たことがない。このあたりにいることは知っていましたが,自分ごときが見つけられるものだとは夢にも思ってません。それを,師匠の目が捕らえた。


 どこかに止まったようで,見失いました。ミズナラやシデが茂る林,私にそれ以外は何も見えません。ところが師匠には見えてます。


 これじゃないよなあ。


 そう言ってさっと網を振ります。その中にはオレンジ色の普通種,ウラナミアカシジミが。どこにいたんだ! 本当に私には見えてませんでした。


 それでしたか。


 いや違う,ムモンはもっと色が濃いんだ。


 素人が見ればどちらもオレンジ色のシジミチョウ,標本を並べてみたって区別はつかない。しかし師匠は10メートル先から識別したというのです。なおも藪の中を走査する師匠。


 ほら,いた。


 そうつぶやく先の下草に,本当に濃色の翅を閉じた2センチほどの蝶が止まってました。その斑紋,まごうことなきムモンアカシジミです。ああ,初めて見た。


 逃げる前に採っちゃってください,貴重なものだし。


 いや,写真撮るくらい待ってるよ。

 

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 こういうところが師匠なんです。すぐ車に戻ってカメラを取ってくると,震える手でシャッターを押しました。まさか自分がムモンアカの写真を撮る日が来ようとは。

 

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 その後しばらく昆虫談義をしてお別れしました。今日は実りある良いフィールド行になりました。師匠に感謝。

 

 

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 伐採地に無数のヒメジョオンが咲いていて,花の香りというか甘い蜜のにおいが一面に漂ってました。ヒメジョオンでも香るんだ。… 若い人たちの前では通ぶった口を利く私ですが,実は何の専門知識も情熱も持っていません。せめて師匠の半分でも,学ぶ心を持つことができたらと思うのですが。

 

 

 

 

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